上司のヒミツと私のウソ
「もちろん『RED』の広告に決まってるだろ」

 くだらない質問をするなといわんばかりに、矢神が早口で答える。


 矢神のデスクの上は、未開封の郵便物や代理店から届いた広告の色校正、仮デザインのペットボトルなどが乱雑に散らばり、ひどいありさまだった。放っているところを見ると、当分片付ける気はないらしい。


「決まったんですか、『RED』の発売」

 私はいそいで会話に割って入った。


 一転してやわらかな期待が胸を押し上げる。だけど、「まだだ」という矢神の短い返答で、あっけなく潰れる。隣で安田が肩を落とした。


「発売が決まっていないのに、広告を進めるんですか?」

「そうだ」

「いいんですか」

「谷部長の許可はとってある」

「でも、発売中止の可能性もあるんですよね」


 資料を探す手を止めて、矢神は安田と目を合わせた。
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