上司のヒミツと私のウソ
「ほかに案があるのか」

 乱雑に積み重なる書類を慎重に移動させながら、矢神が聞く。返答できない。


 この週末、ずっと考えた。いくら考えても、『RED』以外の商品名は浮かばなかった。なによりも、『RED』をあきらめたくなかった。

「企画者はおまえだ」

 ようやく探し当てた資料を手にして、矢神はいった。


「西森がだめだというなら、やめる」


 いつからいたのか、安田の後ろに秋田さんが立っていた。その横には荒谷さんがいる。進藤さん、小島さん、永井さん、斎藤さん、企画部にいる『RED』のメンバーが、私たちをとり囲んだ。

 みんな、なにもいわずに、なりゆきを見守っている。


 私が「やめる」といわなければ、誰もなにもいえないのだということに、やっと気づいた。『RED』を商品名にしようといい出したのは、誰でもない、私だ。

 この気まずい空気から、早く抜け出したかった。その気配を察したように、「だけど」と矢神が言葉を続けた。


「西森が、もし『RED』以外に考えられないというなら、俺たちは全力でバックアップしてやる」
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