上司のヒミツと私のウソ
 矢神は手にした資料を私の前に差し出した。それは、前回のミーティングで私が提出した企画書だった。

「懸念事項はすべて調整ずみだ。内容を確認して、明後日のミーティングまでにスケジュールを立てろ」


 まだためらっていた。でも、といいかけた私の手を、矢神は強引につかんで無理やり資料を握らせた。


「俺はおまえを信じる」


 その声は私のがらんどうの胸の中に響き、暗闇に浮かぶ青白い炎を揺らした。





「西森が『RED』をやめるっていったら、どうしようかとおもった」

 その日の夜遅く、残業を終えて駅に向かう道を歩きながら、安田はいった。


「ほかのみんなも、同じ気持ちだったとおもうよ」

「えっ?」

「あたりまえじゃん。ここまできたら、『RED』で売りたいとおもってるよ、全員」
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