上司のヒミツと私のウソ
 そこまでいって、安田は急に思い出し笑いをしたように、にやにやと口もとをゆるめた。


「それにしても、やってくれるよねー」


 オフィス街のビルの明かりは、ほとんどが消えている。

 ひと通りもすっかり途絶え、深夜営業の居酒屋やバーの薄暗い光が、ぽつぽつと路上に落ちていた。


「さっき、化粧室で秋田さんに会うなり『矢神課長って、前からああいうひとだったの?』って聞かれちゃったよ」


 あのあと、私たちは急いでアトリエ颯に連絡を入れ、明後日のミーティングに同席してほしいと頼んだ。当日、ラフデザインを数点持ってきてほしいといったから、今頃あちらも大変なことになっているだろう。


「でも、ただじゃすまないんじゃない。あんなこといっちゃって」

「なにが?」
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