上司のヒミツと私のウソ
 聞き返すと、安田は呆れたような茶化すような口調で、「だって、まるで愛の告白みたいに聞こえたよ。みんなの前でさ」といった。

 私はどう返答すればいいかわからず、黙っていた。


 林立するビルの間を、ときおり突風が吹き過ぎる。深夜の風はさすがに冬めいて、冷たく頬を突き刺した。


「で、西森はどうこたえるの?」

 安田は楽しそうな笑みを浮かべて、突風に首を縮める私を見た。


「……うん」

「うんって、なに。どうしたの。今日はずっとぼんやりして」

「考えてた」

「なにを?」

「孤独について」

「はあ?」


 足もとを風が通り抜け、街路樹の落ち葉がかさかさ舞った。歩きながら頭上を見上げた。
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