上司のヒミツと私のウソ
山田亜佐美という女優に会ったとき、想像していたとおりの女性だとおもった。
撮影の日は、朝から矢神と一緒にスタジオに入っていた。
はじめて見る機材やスタッフの間で飛び交う聞き慣れない言葉に緊張し、まるで勝手がわからなくて、私は邪魔にならないようスタジオの隅っこでマネキンのように突っ立っていた。
矢神は、正念場だからと応援にかけつけたアトリエ颯の相田社長と一緒にいて、ときおり笑いながら、なにか親しげに話しこんでいる。
そのようすからは、失敗すれば支店に飛ばされるかもしれないという焦燥感や絶望感はまったく感じられない。私は拍子抜けするとともに、少し腹立たしくなった。
彼女が声をかけてきたのは、そんなときで、スタジオの隅に立つ私の顔を遠慮がちにのぞきこみ、「西森さん、ですか」と聞いた。
「山田亜佐美です。はじめまして」
深々とお辞儀をされて、私はあわてて頭を下げた。それから思い出したようにスーツのポケットから名刺入れを出し、名刺を渡した。
彼女は丁寧に名刺を受けとり、しげしげと見ている。そのようすが子供っぽい。