上司のヒミツと私のウソ
「ありがとうございます」

 今度ははっきりと大きな声でいった。見るとまた頭を下げている。


「いえ……あの、そんな」

「いただいたチャンスは、絶対に無駄にはしません」


 顔を上げてきっぱり断言し、こぼれるような笑顔を浮かべる。淡いピンクのバラが一斉に咲いたような、同性の私でさえどきっとする華やかな笑顔だった。


 びっくりした。

 ドラマで見る彼女の笑顔はいつも「ほくそ笑む」程度で、こんなふうに笑えるひとだと知らなかった。


「がんばりますから。見ていてくださいね」


 みたび頭を下げて、軽やかに私の前から立ち去った。

 心臓がどきどきと激しく胸を叩いていた。よかった、とおもった。やっぱり、彼女を選んだのは間違いじゃなかった。


「西森」

 ぼうっとしていると、矢神がすぐ後ろに来ていた。

「柳瀬部長が来た」

 低い声が少し緊張していた。
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