上司のヒミツと私のウソ
 残された私は柳瀬部長の厳しい視線にさらされ、蝋人形のように硬直した。

「あのセットは、なんで白なんだ?」

 柳瀬部長はセットに視線を移し、不機嫌そうな声でつぶやいた。


 私は縮こまりながら、「今回のタイトルは白いシャツなんです」と答えた。さっと振り向いた柳瀬部長の顔がぎらついている。


「どうして『RED』なのに白なんだ」

「それは……その、赤をより鮮明に表現するには、白を背景にするのがいいという……そういう理由です」

「安直だな。白いシャツってのは、なんだ」

「彼女が着ているシャツです」


 私はセットの片隅に立っている山田亜佐美を指さした。スーツの上着を脱いだ彼女は、真っ白なシャツを着ていた。


「CMでは彼女の背中をアップにして、白を画面いっぱいに映します。カメラを引くと、徐々に歩いている彼女の後ろ姿が映ります。つまり、白いシャツを着た彼女の背中がタイトルバックになるんです」


 柳瀬部長は顎のあたりをさわりながら、山田亜佐美を見て「ふうん」といった。
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