上司のヒミツと私のウソ
「あの子、嫌な女の役ばかりやってる子だろ」

「ご存じなんですか」

「このまえ、なんとかってドラマに出てたな」

「『ワーキングウーマン』です」

「そう、それだ」

「今回の彼女の設定も、キャリアウーマンなんです」


 すると、またしばらく亜佐美を見ながら考えこんで「ドラマと同じイメージだな」といった。

 亜佐美は、シャツの襟をしきりに気にしているようだ。さっきから何度も鏡をのぞいてなおしている。


「同じ人物でも、違う視点で見ると、別人になるとおもいませんか?」

 柳瀬部長の眉がぴくぴくと動く。目はまだ亜佐美を追っている。


「彼女が演じるのは、会社では休憩もとらずに仕事をバリバリこなしていて、ちょっと恐くて近よりがたい印象を周囲に与えている完璧主義の女性です。でも、誰も見ていないところでスイッチがオフになると、気が抜けたようにのんびりしてしまう。彼女のスイッチをオフにするのが『RED』なんです」
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