上司のヒミツと私のウソ
 柳瀬部長は黙って聞いている。

「べにしずくの最大の特徴は、国外産の紅茶にはないまろやかな味とやさしい香りです。その特徴を伝えるために、あえて逆の方向からアプローチしたらどうかとおもったんです。多くの働く女性にとって、仕事をバリバリこなすのも日常なら、美容や健康を意識してリラックスするのも、同時に日常といえるんじゃないかと」


 なんだかしゃべりすぎているな、と自分でもわかっていたが、止まらなかった。生意気だとおもわれているかもしれないけれど、ここは一歩も引けない。


「世間のひとは、私や部長と同じように、山田さんの怖いイメージしか知りません。でも、誰もが異なる顔をたくさん抱えて生きているように、彼女にも私たちが知らない別の顔があるはずです。その顔のひとつを、『RED』が導き出せたら、おもしろいかなとおもったんですけど……」


 部長の顔がだんだん厳しくなるので、声が尻すぼみになった。私が黙りこむと、柳瀬部長がぎろっと目を動かして「それで?」といった。


「え?」

「この企画は連作だと聞いたが?」
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