上司のヒミツと私のウソ
「あんた、片付けに来ようとか考えてないでしょうね。いくら片付け魔だからって、ほかの部署まで出張するのはどうかとおもうよ。西森はもう開発の人間なんだから」

 わかってるよといいながら、この惨状を目の当たりにしてよく放っておけるな、と呆れた目で安田を見た。


 私が企画部を離れてから半年が経った。

 安田は今日を最後に本社を去り、関西本部に勤務することになっている。


 私は知らなかったのだけれど、安田は少し前から関西本部に行きたいと希望を出していたらしい。

 付き合っているひとと別れた、と聞かされたのは、一週間前だ。


「もう潮時だとおもって」

 ちょうどよかった、と安田はいう。


「ここにいたら会いたくなるから。会いたいっていわれたら、きっと会いにいっちゃうし。だから、会えないところへ行くしかないって、ずっとおもってた」


 向こうでいい男を見つけてくる、と安田は笑っていた。
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