上司のヒミツと私のウソ
「なんでって、半分以上自分が作った広告だし……。今さら昔の広告なんかじっと見てどうするんだ」

「懐かしがる」

「それで?」

「大事なことを思い出す」

「大事なこと?」


 矢神の顔がこちらを向いた。

 私は立ち上がって、金網の向こうに広がる都会のきらめきを見下ろした。


 巨大なビルは煌々と明かりを灯し、極彩色の看板のネオンが瞬き、大通りを流れる車の赤いライトはどこまでも続いている。


「それ、『一期一会』の広告のことか?」


 いつの間にか矢神が隣に来ていて、一緒に光の帯を眺めていた。


 ちょっとうんざりしたような口調なのは、たぶん、私の部屋に『一期一会』のポスターが貼ってあるのを思い出したからだろう。

 矢神は部屋に来るたび、あのポスターを剥がせといってうるさい。
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