上司のヒミツと私のウソ

「私、今でも『一期一会』の広告を見るたびに思い出すから。四年前、あの広告にどれほど勇気をもらったか、今でもちゃんと思い出せる。正確にいうと、あの広告を作ったひとに、なんですけど」


　遠い地上のどこかでクラクションが鳴った。


「そのひとに会いたくて、この会社の採用試験を受けて、そのひとに近づきたくて、企画書を出したんです。『一期一会』の広告を見ると、そういうことを全部思い出して、なんだか誇らしい気持ちになる。自分がいまどこにいて、なにをしているのか、ときどきわからなくなるときがあるけど、あの広告を見るとわかるっていうか……。うまくいえないんですけど」


　矢神を見ると、驚いたことに、どうしていいかわからないといったような複雑な表情をしていた。

　ネオンの赤い光のせいか、微妙に顔が赤いような気もする。近づいてたしかめようとすると、矢神はさっと私から離れた。


「そろそろ時間だな」


　白々しく腕時計を確認するふりをして、歩き出す。