上司のヒミツと私のウソ
「あの、ちょっと」

 私はあわてて追いかけた。

「今、ものすごく大事なことを話してるんですけど」


 矢神は大股で昇降口に向かっている。小走りになって矢神の横に並び、顔をのぞきこんだ。暗いのでよく見えない。


「いや……もういい。わかったから」

 はっきりしない低い声でちいさくつぶやき、照れくさそうに顔をそらした。





 エレベーターで一階に下りると、広報が企画した広告展がロビーの隅のわずかなスペースで開催されていた。

 背の高い白いパネルが立てられ、歴代のヒット商品を扱ったポスターが、年代ごとに展示されている。

 パネルのいちばん最後に、数日前できあがったばかりの『RED』の最新のポスターが貼られていた。
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