上司のヒミツと私のウソ
節約のために、毎日手作り弁当を持参している自分への週に一度のささやかなご褒美。それが、金曜日の食後のデザートだった。
陳列棚の前を行きつもどりつして悩んだすえに、二百八十円のチョコレートケーキを買うことに決めた。
レジにできた行列の最後尾に並ぶと、目の前に見覚えのある長身の男性が立っている。
豊かな黒髪には一束の乱れもなく、今日も高そうなブランドもののスーツをさらりと着こなしていらっしゃる。
私はいそいで乱れた髪をなでつけた。
「矢神(やがみ)課長」
控えめに声をかけた。彼が振り向き、私だと気づくと眼鏡ごしにふんわりとほほえむ。
このひとは笑顔まで洗練されているなあとおもう。見れば、手にしているのはミックスサンドひとつ。
「そんなので足りるんですか」
「急ぎの仕事がたまってまして」
彼は情けなさそうにいった。それなのに、浮かべる笑顔も口調もゆったりとして余裕さえ伺える。ほんとに焦ってるんですか、と聞き返したくなる。
陳列棚の前を行きつもどりつして悩んだすえに、二百八十円のチョコレートケーキを買うことに決めた。
レジにできた行列の最後尾に並ぶと、目の前に見覚えのある長身の男性が立っている。
豊かな黒髪には一束の乱れもなく、今日も高そうなブランドもののスーツをさらりと着こなしていらっしゃる。
私はいそいで乱れた髪をなでつけた。
「矢神(やがみ)課長」
控えめに声をかけた。彼が振り向き、私だと気づくと眼鏡ごしにふんわりとほほえむ。
このひとは笑顔まで洗練されているなあとおもう。見れば、手にしているのはミックスサンドひとつ。
「そんなので足りるんですか」
「急ぎの仕事がたまってまして」
彼は情けなさそうにいった。それなのに、浮かべる笑顔も口調もゆったりとして余裕さえ伺える。ほんとに焦ってるんですか、と聞き返したくなる。