上司のヒミツと私のウソ
「人事部にいたくせに、俺の経歴もろくに調べてなかったみたいだな」
経歴? 医学部卒業じゃなかったの?
矢神は煙草を咥えたまま、ぞっとするような冷たい眼で私を見下ろした。白い煙が細いリボンのように灰色の空にのぼる。
「俺は高校中退だ。しかも素行不良による強制退学」
「でも、たしか最終学歴はK大のはず……」
「大検を経てな。取得するのに三年かかって、大学を卒業するのに六年かかった」
「……」
「俺に比べれば、あんたはマトモなほうだろ」
はじめて矢神が笑った。
表のときの、非の打ち所がない完璧な笑顔じゃなく。
ちょっと照れたような、困ったような微妙な笑い方ではあるけれど。
「経歴なんかどうでもいいんだよ」
経歴? 医学部卒業じゃなかったの?
矢神は煙草を咥えたまま、ぞっとするような冷たい眼で私を見下ろした。白い煙が細いリボンのように灰色の空にのぼる。
「俺は高校中退だ。しかも素行不良による強制退学」
「でも、たしか最終学歴はK大のはず……」
「大検を経てな。取得するのに三年かかって、大学を卒業するのに六年かかった」
「……」
「俺に比べれば、あんたはマトモなほうだろ」
はじめて矢神が笑った。
表のときの、非の打ち所がない完璧な笑顔じゃなく。
ちょっと照れたような、困ったような微妙な笑い方ではあるけれど。
「経歴なんかどうでもいいんだよ」