上司のヒミツと私のウソ
第3章 禁煙バトル Doubt to him
私が持っている化粧品の数は、少ないほうだとおもう。
社会人のマナーだとおもうからしょうがなくやっているだけで、もともとメイクは好きじゃない。顔中べたべた塗りたくって気持ちが悪いことこのうえないし、なにより煩わしい。安田に話したら即刻「終わってる」っていわれそうだけど。
だから、メイクに時間をかけるなんてもってのほかだった。できるだけ化粧品にお金をかけず、朝の仕度に要する時間をいかにして短縮するかが、私にとっての最優先事項だった──二十代前半までは。
最近は鏡を見るたびにシミが増えている気がする。三十になったから急に老けるわけではないとおもうけれど、頬は明らかにたるんできているし、皮膚の張りも艶もなくなって、目もと口もとのちいさな皺はナチュラルメイク(手抜きメイクともいう)では到底隠しきれなくなってきた。
昔のアルバムなんか見た日には、落ち込み度は倍増する。若いときは本気で考えてみたこともなかった。月日とともに顔が衰えていくなんて。
「だから煙草をやめなさいって何度もいってるでしょ!」
母親のような口調になっている。またミサコちゃんの説経が始まった。