上司のヒミツと私のウソ
「年を考えなさい、年を。なんでそんなきれいな顔をわざわざ老け込ませるようなマネするのよ、もったいないでしょ!」

「きれいって……私、そんなきれいじゃないよ」

「きれいでしょ! 十分、きれいでしょ!」

 怒鳴られているのか褒められているのかよくわからないけど、とりあえず「ありがとう」といっておく。

 ミサコちゃんはじろりと私を睨み、「でも今のままじゃ、そのきれいな顔も近いうちに台無しになるわよ」などと恐ろしいことをいう。


 柳原美砂子は、私の幼なじみだ。


 三月に入って二回目の日曜日、ひさしぶりに私のアパートを訪ねてきたとおもったら、部屋に入るなり厳しい生活チェックが始まった。

 冷蔵庫の中のものと調味料の賞味期限をひととおり確認し終わると、1DKの狭い部屋の中を隅々まで見てまわり、ドレッサーの横のカゴにハイライトの買い置きがどっさり入っているのを見て肩を落とした。


「いつまでも自堕落な生活を送ってると、後悔することになるからね。そのようすじゃ、どうせ付き合ってる人もいないんでしょ」

 ミサコちゃんは断言し、溜息混じりに首を振る。ちょっと前まではいたんですけど。

「まずは禁煙すること。いい?」

 上の空で聞いていると、じろっと睨まれた。彼女の年齢は三十一で私とは一つしか違わないのだけれど、私は昔からミサコちゃんに頭が上がらない。
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