上司のヒミツと私のウソ
 私の両親は共働きで、毎日夜遅くまで家を留守にしていた。


 まだ小さかった私は、両親が帰ってくるまでいつも隣家の柳原家にあずけられていた。

 私にとって柳原のおじさんとおばさんは育ての親のようなもので、一人娘のミサコちゃんとは物心がついたときから姉妹同然の仲だ。それは大人になった今も続いている。


「それとこれ。一か月遅れでごめんね」

 そういって、ミサコちゃんがトートバッグから取り出したのは、赤いリボンがかけられた封筒ほどの薄い包み。

「誕生日プレゼント」

 誕生日の当日、ミサコちゃんは例年のごとく十二時になると「おめでとう」の電話を入れてくれた。恋人の矢神よりも早く。


 そう。あのときの私は矢神にプロポーズされて幸せの絶頂だった……。


 私はすばやく記憶の流れをシャットアウトした。

 その先の嫌な出来事まで思い出す必要はないのだ。


 お礼をいって包みを開けると、舞台のチケットだった。

「華、前に見たいっていってたでしょ。一緒に行こう」

 何か月か前に電話で話していたとき、ちらっといっただけなのに、彼女はそういうことを絶対に聞き逃さない。昔から。
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