上司のヒミツと私のウソ
「たまには実家にも顔を出しなさいよ。おじさんとおばさんに聞いたら、今年のお正月に帰らなかったらしいじゃない。うちには正月明けにわざわざ挨拶しに来てくれたのに」

 ミサコちゃんは思い出したように、ふたたび説経口調になった。

「だって気まずいんだもん、実家」

「困ったもんね」

 ミサコちゃんは、ちいさく笑って溜息をついた。


 でも、しょうがないとおもう。

 学校で嫌なことがあったとき、難しい宿題が出たとき、友達と喧嘩して帰ってきたとき、いつも相談に乗ってくれたのは柳原のおばさんとおじさんだった。

 高校受験に合格したときも、就職が決まったときも、私が真っ先に報告したのは両親じゃなかった。

 その事実を、子供のころから誰よりも間近で見てきたミサコちゃんは、一方的に私を責めるようなことはしない。ただ、まるで自分が冷たくされたように悲しそうな顔をする。


「ミサコちゃんこそ、早くおじさんとおばさんを安心させてあげたら。笹島さんとの結婚、まだなの?」

 話題を変えた。
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