上司のヒミツと私のウソ
「え……?」

 いきなりまずい展開になった。体の芯が冷たくなる。


「どうした、西森。顔がひきつってるぞ」

「……そんなことないです」

「声が震えてないか?」」

 矢神は笑いをこらえて声を詰まらせている。


 その瞬間、私の負けず嫌い魂に火がついてしまった。


「わかりました。そのかわり、課長も付き合ってくださいね」

 とたんに矢神が笑うのを止め、ぎょっとしたように私を見下ろす。


「なんで俺があんたの禁煙に付き合うんだ。おかしいだろ」

「試合放棄ですか? 女に負けるのが悔しいんでしょ」

「問題をすり替えるな」

「できないんですか?」

 さらに強い口調で詰め寄ると、矢神は口を閉ざした。


 ビル街の上空を強い北風が吹き荒れる。ボタンを外した矢神の背広とネクタイが、風に遊ばれてバタバタともがいている。今日はスカートにしなくてよかった。


「わかった」

 渋々といった感じで、矢神が唸るような声でつぶやく。風に掻き消えそうなくらい弱々しい矢神の声を聞くと、私はさらに強気になった。
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