上司のヒミツと私のウソ
「もし私が課長よりも先に禁煙に成功したら、私の質問に本音で答えてくれますか」


 矢神は押し黙ったまま、冷たい眼で私を見下ろしている。途切れることのない寒風に晒され、手足の先が徐々にかじかんできた。

「禁煙に成功したらな。確率は低そうだが」

「やってみなきゃわかりません」


 しばらく互いに譲らない睨み合いが続いたあとで、矢神がぼそりとつぶやいた。


「ところであれから何分経った?」

 当然ながら──三分はとうに過ぎていた。





「無理なんじゃない」

 私の禁煙宣言に対する安田のコメントは、一言だった。


「やってみなきゃわからないでしょ」

「本気でできるとおもってんの?」


 安田はさらりといい、サラダが山盛り入った器に和風ドレッシングをかけている。

 今日の昼食は、私はいつもどおりの手作り弁当、安田は女性社員の間でブレイクしている新メニューのサラダランチ。


 ちなみにここは四階にある社員食堂だ。


「ムリムリ。よけいなストレス溜めて太るだけだって」

 安田はいきなり核心をつく。
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