上司のヒミツと私のウソ
 たしかに、煙草をやめると一気に太る、という話はよく聞く。それはかなり深刻な問題だとおもう。辛いおもいをして禁煙に成功して体型がスリムになるなら我慢のし甲斐もあるが、ぶくぶく太った自分を想像すると恐怖で身が縮む。


「ね? 煙草は百害あって一利なし、っていうけどさ、多くの女性にとって少なくとも一利は間違いなくあるわけよ」

 安田はいいつつ、ドレッシングをからめた紫キャベツの千切りを口に運ぶ。サラダは、食堂の中央にあるサラダバーから選べて、おかわり自由。これに日替わりのスープとお総菜とパンがついて四百円。

 私はあらためて自分の弁当箱の中身を確認し、顔をしかめた。今朝は時間がなかったから、いつにもまして冷凍食品のオンパレードだ。目の前の新鮮な野菜と比べると、当然見劣りしてしまう。


「でも」


 矢神の憎たらしい薄笑いを思い出し、衣がしんなりしたクリームコロッケを一口で平らげた。

 やっぱり負けたくない。


「それって、結局は都合のいいいいわけだとおもう。そんなこといってだらだら吸い続けてるから、馬鹿にされるのよね」

 安田が怪訝そうな顔でこちらを見ているのに気づき、私は慌てて「親に」と強い口調のまま付け加えた。
< 97 / 663 >

この作品をシェア

pagetop