最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
言ったあ。言っちゃったよ、俺……
でも、もちろん後悔なんかしない。交際期間一ヶ月ちょいでプロポーズというのは早すぎるかもしれないが、恭子さんとなら結婚してもいいと俺は思ってる。心から。
しかし肝心の恭子さんは何て答えてくれるのか……
俺の肩の辺りにある恭子さんの顔を覗こうとしたら、まるでそれを避けるかのように恭子さんは体を起こした。
「だから、私はそういう事は考えた事がないって言ったでしょ?」
「恭子さん……?」
まさか恭子さんからそんな覚めた反応が返るとは思ってもなく、俺は情けない声を出して体を起こし、恭子さんの顔を見ようとした。
ところが、恭子さんはぷいっと横を向いてしまった。
「今まで通りじゃダメなの?」
「それは……」
しばらくの間ならそれでもいい。しかし、近い将来の事として、そういう事を考えたいんだ。俺としては。
そして恭子さんも同じ考えでいてほしかった。いや、同じだと思ってた。ところがそれは、俺だけの独り相撲だったらしい。
俺ががっくりと落ち込んでいると、恭子さんは、
「私たち、近付き過ぎたみたいね? これからは少し距離を置いた方がいいと思う」
追い打ちをかけるようにそんな事を言い、俺には返す言葉が見つからなかった。
これってもしかして、振られる瞬間ではなかろうか。
「私、帰るね?」
俺は俯いたまま、恭子さんがアパートを出て行く音だけを聞いていた。
まさかこんな事になるなんて……