最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「恭子が話したの?」

「いいえ。恭子さんは話してくれません。彼女の寝言を聞いたんです。3回も。“ナカジマくん……”って、切なそうに」


ああ、くそっ。思い出したら腹が立ってきた。


「そうなんだあ。もう、あの子ったら……。でも、許してあげて? そう簡単には消えてくれないと思うから。あの子の深層心理からは」


出たよ、“深層心理”。もう聞き飽きたよ、その言葉は。


「へえー、そういうものですかね?」

「拗ねないの。だってあの子の初恋らしいもの。初恋が特別なものだって事、あなたにも解るでしょ?」

「は、初恋なんですか?」

「そう聞いてるわ」


ずいぶん遅い初恋だなあ。ま、この間までまだ処女だったわけだし、恭子さんってすげえ遅咲きなんだな。


「恭子の意識の中ではとっくに諦めて忘れてるはずだから、あなたは気にしないで? ね?」

「別に無理して忘れる必要ないんじゃないですか?」

「また拗ねる……。拗ねないでって言ってるのに……」

「別に拗ねてなんか……」


してるけどね。


その時、ふと俺は思った。俺にとってはこの上なく残念な事だが、恭子さんは無理して中嶋さんを諦める必要はないんじゃないかと。

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