最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
というようなバカな事を考えながら、
「何でもいいです。楠さんにお任せします」
と答えた。実際のところ、俺は莉那先輩と一緒なら何でも良かった。食い物に好き嫌いはあまりないし。
「そう? 川田君ってお酒は飲めるのよね?」
「はい。あまり強くないですけど」
酒は結構好きな方だ。でもあまり強い方ではなく、調子に乗って飲み過ぎて酷い目に会った事が過去に何度もある。
「じゃあ、近くに時々行く小料理屋さんがあるんだけど、そこでいいかしら?」
「はい、行きましょう」
9月もシルバーウィークを過ぎ、この頃はすっかり秋めき、日が沈みかけの今は暑くもなく寒くもなく、丁度良い陽気と思われた。
莉那先輩と他愛のない話をしながらしばらく歩くと、俺はその存在すら知らなかった小さな小料理屋へ着いた。
莉那先輩が暖簾をくぐってガラス戸を開けると、カウンターの向こうにおばさんがいて、莉那先輩を見るや人懐こそうな笑顔で、
「こんばんは。今日は早いわね」
と言った。莉那先輩は“時々”と言っていたが、実際はかなりの常連さんだと思う。
テーブル席も空いていたが、莉那先輩は迷わずカウンターの中央に座り、俺もすかさず彼女の隣に座った。
店のおばさんは、俺を見ても特に驚いた様子はなかった。という事は、莉那先輩がここに男連れで来るのは珍しい事じゃないと思われ、そう思ったらちょっとがっかりしてしまった。