最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
それから数日経ち、ついに川田君に紹介してもらう日がやって来た。
「お母さん、今日は帰りが遅くなると思うけど、心配しないでね?」
「そう? 今日はおめかししちゃって、何かあるの?」
「うん、ちょっとね……」
おめかしと言っても、普段は着ない明るい色のブラウスを着ただけだ。買ってはみたものの、私には似合わないと思って袖を通した事のない、淡いパープルのブラウス。
「無理しないでよ?」
「うん、わかってる」
「出掛ける時にこんな事言うのは変だけど……」
お母さんはそこで言葉を切り、悲しそうな顔をした。
「お仕事、辞めた方がいいんじゃないかしら」
「ど、どうして?」
「辛いんでしょ、体……」
やっぱりお母さんにはわかっていたらしい。私の心臓がかなり悪化している事を……
この頃は階段は息が切れて上がれないし、歩くだけでも、休み休みじゃないと息が切れてしまう。職場に着けば座ってする仕事だから大丈夫だけど、朝晩の通勤が地獄のように辛くなってきた。
「もう少しがんばってみたいの。ごめんね、心配掛けて……」
会社を辞める事は私も何度か考えた。でも、会社に行かないと莉那とお喋りできないし、川田君を見る事が出来ないから、私はそのために体に鞭打って会社へ行っていた。そう長くは続けられないと思うけど。