最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「莉那が帰っちゃって残念ね?」
つい、そんな皮肉を私は言ってしまった。初めてまともに喋った言葉がこれだもの、川田君はさぞかし嫌な女と思った事だろう。実際にそうなんだけど。
「あ、いや、料理ですよ? あの人ったら、自分は食べもしないくせにこんなに頼んじゃって……」
ところが川田君は、そんな見え透いた事を言って一生懸命に弁解した。笑顔まで作って。私は真っ直ぐに自分に向けられた彼の笑顔にやられ、顔が熱くなったので慌てて横を向いた。赤くなった顔を彼に見られたくなかったから。
その後、川田君は盛んに私に話し掛けてくれたけど、私は最初に毒舌を吐いてしまった手前、愛想よくできず、そんな自分が嫌になり、自己嫌悪になってますます彼と話す事ができず、仕方がないので黙々と料理を口に運んでいた。
せっかく設定してくれた莉那には悪いけど、川田君と会うのは今夜が最初で最後になると思う。私みたいなつまらない女と、川田君がまた会ってくれるとは思えないから。
料理を食べ終えてしまうと、私も川田君もする事がない。会話をしようにも、何を話せばよいのか……
川田君も困っているのは明らかだから、
「そろそろ帰りましょうよ?」
と私は言った。
これでお終い。川田君に近付く事も、話すチャンスももう二度とないと思うと残念だった。自業自得だけれども……
「じゃあ、今日のところはこの辺で帰りましょうか?」
当然ながら川田君は私の提案に賛成した。内心、彼はホッとしたはずだ。私と離れる事ができて。そう思ったのだけど、
「最初ですもんね?」
と川田君は言い添えた。しかも笑顔で。作り笑いっぽいけど。
川田君は、また私と会ってくれるつもりなのだろうか? こんな嫌な女と?
信じられないという気持ちと、また会えるといいなという気持ちで、私はコクッと頷いた。