最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「恭子さん、どうしたんですか?」
川田君が私を心配してくれたけど、
「どうして……エスカ……レーターを……使わないのよ!」
こんな状況でもまだ毒舌キャラを続ける自分に我ながら呆れてしまう。
こんな可愛げのない女じゃ川田君に見捨てられるかな、と思ったのだけど、
「俺が支えますから、恭子さんも俺に掴まってください」
川田君は私の脇に手を差し込み、私の体を支えてくれた。
川田君は見掛けによらず逞しく、決して小さくはない私の体を力強く支えてくれて、彼のおかげで何とか階段を上がり切る事ができた。そして電車に乗ると優先席に座らせてもらい、しばらくすると私の心臓は落ち着きだした。
やっぱり川田君って優しい子だわ。彼みたいな男の子と恋をしたかったな。
そう思ったけど、それは到底叶わない事。私にはもう残された時間もないし。でも……
私はある事を考えた。ある企みと言うべきかもしれない。それは、死を意識してから私には2つの心残りがあった。2つと言っても、密接な関係のある事同士だけれど。
ひとつは男の子と恋をした事がないという事だけど、それはもう諦めるしかないと思う。もうひとつは、セックスというものを経験していない事。
死ぬ前に、一度でいいから経験してみたかった。その相手が川田君だったらどんなにいいか。そして、今こそがそのチャンスではないかと思う。このチャンスを逃してはいけないと……