最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
生きてください
俺は救急車を呼んでから、恭子さんの携帯で彼女のお母さんに電話した。
電話に出た恭子さんのお母さんは、意外にも冷静な声で、恭子さんの掛かりつけの病院を俺に教えてくれた。救急車が来たら、救急隊員へその病院を告げてほしいと。
恭子さんは俺の腕の中で意識を失っていたが、息はしていた。微かにだが。俺はなすすべもなく、恭子さんを抱きかかえながら、一刻も早く救急車が来てくれる事を祈るばかりだった。
恭子さんは、彼女の掛かりつけらしい大きな大学病院へ搬送され、今は集中治療室で治療を受けている。
「申し訳ありません。僕がもっと注意していれば、こんな事には……」
駆けつけた恭子さんのご両親に向かい、俺は深く頭を下げた。俺が恭子さんの病気に気付いてさえいれば、こんな事にはならなかったと思うと、激しい自己嫌悪と、恭子さんのご両親、そして恭子さん自身に対する申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
恭子さんのご両親からは、どんなに責められても、罵倒されても仕方ないと思った。ところが……
「いいんですよ、川田さん。あの子は覚悟してたはずだから……」
と恭子さんのお母さんは言い、お父さんも、
「いつかこの日が来る事を、私達はずいぶん前から覚悟していたからね」
と、静かな声で言った。
お二人から責められないのは正直有り難いが……
「僕は嫌です。そんな覚悟はできてませんから。恭子さんがこのまま逝っちゃうなんて、僕は認めません」
さも恭子さんがこのまま帰らぬ人となるかのような言い方に、俺は納得できず、腹が立ち、悔しかった。