最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

お母さんから聞いた話によると、恭子さんはまだ赤ちゃんの頃に心臓の手術を受けたらしい。幼気(いたいけ)な赤ちゃんの胸にメスが入れられたと思うと、俺は自分の胸が痛む思いだった。


ところが、それでも恭子さんの心臓は完治せず、殆ど運動はできず、チアノーゼという現象のため、唇はいつも黒ずんでいたという。

恭子さんはそれをとても気にしていて、大人になってからは濃い色の口紅を塗り、それを隠しているという。


恭子さんが常に濃い口紅を塗っていたのには、そういう理由があったのだ。


最初の手術から10年弱が経過し、症状が悪化して二度目の手術を受け、更に10年も満たない内にもう一度と、計3回も手術を受けたらしい。


胸の真ん中には長い手術の跡ができ、恭子さんはそれもとても気にしているという。恭子さんが俺に胸を見せてくれないのは、そのためだったのだ。


今は最後の手術から10年以上が過ぎ、本来なら4回目の手術を受けていたはずだった。また、技術が進歩した今は、難しい手術にはなるが、根治を目指す手術もあるらしい。

ところが恭子さんは色々と理由をつけ、今日まで手術を先延ばしにしてきたという。


いずれの手術にせよ、とにかく手術を受けないと恭子さんの心臓はあまり持たないらしい。もしかすると、次の正月を迎えられないかもしれないと……

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