最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「どうかしましたか?」
「いいえ、何でもないです」
そうかあ。恭子さんめ……
家では俺の事、名前で呼んでるんだな。俺には一度も呼んでくれた事ないのに……
よーし。もう“川田君”なんて呼ばせないぞ!
仕事が終わると、俺は恭子さんの病院へ行くべく会社を飛び出した。ちなみに莉那先輩は明日見舞いに行くとの事だった。
恭子さんの病室のドアをノックすると、今朝と同じくお母さんが出て来た。
「こんばんは。入っていいですか?」
俺はそう聞きながら、既に入る気満々でいたのだが……
「ちょっと待ってください」
お母さんに腕を引かれてしまった。
「はい?」
「それが……」
お母さんはやはり今朝と同じで、申し訳なさそうに、言いにくそうにしている。どういう事だ?
「恭子ったら、あなたに会いたくないって……」
「そんなあ。何でですか?」
「あなたに顔を見られたくないらしいの。お化粧してないから」
「そ、そんな事ですか? ったく……何を言ってるんだか。入りますよ?」
俺は強引に病室のドアをくぐり抜け、お母さんも無理には俺を引き留めなかった。