最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

病室に足を入れると、一瞬こっちを見る恭子さんの白い顔が見えたのだが、すぐに彼女は布団で顔を隠してしまった。


「お母さん。会いたくないって言ったでしょ?」


布団の下からお母さんを非難する恭子さんの大きな声が聞こえた。それだけ大きな声を出せるならもう大丈夫だろう。そう思ってむしろ俺はホッとした。


「そんな意地を張らないの。恭子だって川田さんに会いたかったくせに……」

「そ、そんな事は……」

「あなた、寝言で言ってたわよ。“川田君……”って、何度も」


ふーん。恭子さんって、“深層心理”ではまだ“川田君”なのか。“陽平君”じゃなくて……って、ん?


「お母さん、“ナカジマくん……”の聞き間違いじゃないですか?」


思わず俺がそう聞いたら、恭子さんが布団の下で息を飲んだような気がした。気のせいかもしれないが。


「いいえ。間違いなく“川田君”って言ってましたよ?」

「そうですか」


という事は……やったあ!

ついに俺は恭子さんの深層心理でも中嶋さんに勝ったという事か?

うん、そういう事にしよう。

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