最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「私は外にいますから」
と言ってお母さんは病室を出て行った。俺たちに気を遣ってくれたのだと思う。
「恭子さん、顔を見せてくださいよ?」
「イヤ! 絶対にイヤ。帰って!」
恭子さんは相変わらず布団を頭から被ったままでそんな事を言った。
「帰りませんよ。絶対に。恭子さんが顔を出してくれるまで、俺はずっと待ってますから」
俺は丸椅子を恭子さんのすぐ横に置き、それに座ってポケットから携帯を取り出した。長期戦の構えだ。
「好きにすれば?」
出たよ。恭子さんの毒舌。慣れてるし、むしろ可愛く思うけどね。
「はい、好きにさせていただきます」
「明日は仕事なんでしょ? 帰らなくていいの?」
「残念でした。明日は土曜日だもんね」
「チッ」
「あはは」
なんだかんだ言っても恭子さんは元気そうで、俺は何よりそれが嬉しかった。
それから30分近くも経っただろうか。恭子さんは今だに布団を被ったままだ。がんばるなあ。
「まだいるの?」
「はい、いますよ」
「もう……」
とうとう恭子さんは観念したらしく、ゆっくりと布団をずらし始めた。