最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
すると、布団の下からまずは恭子さんの少し寝癖のついたふわふわの髪の毛が出て、次にあの綺麗な黒眼がちな目が出て、その瞳は真っ直ぐ俺の事を睨んでいた。と言っても、ちっとも怖くはないが。
「これでいい?」
「うーん、なんだかアラブの女性みたいでエキゾチックですね? でも……ダメです」
「なんでよ?」
「ちゃんと恭子さんの顔を見たいからです」
「どうしても?」
「どうしても」
「…………だったら見れば?」
恭子さんは、一気に布団を胸元までずらした。現れた恭子さんの唇は、やはり黒ずんでいた。
「どう? 私の唇、汚い色でしょ?」
「いや、それは……」
「綺麗なんて、言わせない」
恭子さんはそう言ってキッと俺を睨んだ。その顔は怒っているというよりも、泣き出しそうな顔に見えた。実際、恭子さんは悲しいのだと思う。
「正直、綺麗とは思わないけど、だから何だって言うんですか?」
「…………」
「チアノーゼっていうんですよね? 昨夜ネットで調べました。心臓病の事を。心臓さえ良くなれば、チアノーゼはなくなりますよね?」
俺がそう言うと恭子さんは、
「だったら……」
と言い、布団を勢いよくお腹の下まで一気にずらした。腕に刺さった点滴の針が抜けはしないかと、一瞬俺はハッとした。