最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「あら、どうして?」
「それはですね、外観は普通の二階建てでいいと思うんですけど、中にはちょっとした工夫をしたいと思うんです」
俺はわざともったい付けた言い方をした。自分のグッドアイデアを自慢しつつ、恭子さんを驚かしたくて。
「まあ。どんな工夫なの?」
「それはですね……」
「うんうん」
「エレベーターを設置するんです」
言った後、俺はきっとドヤ顔になってたと思う。もちろん階段が苦手な恭子さんのためなのだが、これを思い付いた時は自分でも感心したものだ。
「もしかして、私のために?」
「はい。あ、自分のためでもあります。恭子さんをおぶって階段を上がらなくていいように、なんて」
「川田君、じゃなかった陽平君、ありがとう。そこまで考えてくれて……」
「いえいえ、いいんですよ」
なんて言いながら、俺は頭をポリポリしてたのだが……
「でも、それはしなくて大丈夫だから」
と恭子さんは言った。
「えっ? なんでですか?」
「私、これからは階段ぐらい上がれるから。駆け上がっちゃうかも。こんな風に」
恭子さんはニッコリと微笑み、腕を振って駆けるような仕草をした。
「そ、そうですか。じゃあ、その件は取り敢えずペンディングにしておきましょう?」
そう言って俺も笑顔で返したが、心の中では泣きそうだった。だって、いくら手術を受けたって、恭子さんの心臓がそこまで良くなるわけでなく、階段を駆け上がるなんて事は、恭子さんにとっては叶わぬ夢のはずだから……