最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

そして翌日。

いよいよ恭子さんが手術を受ける日が来た。もちろん俺は病院へ行き、しっかりとそれを見届けるつもりだ。会社は年休を取っているし。


病室へ行くと、恭子さんは既に手術用の服(?)に着替えていた。それを見たら、なんだか緊張してしまった。

4回目で、しかもまず失敗する事はないらしい手術とは言え、やはり緊張してしまう。俺が緊張してもしょうがないのだが。


「恭子さん、気分は大丈夫ですか?」

「うん。大丈夫よ?」


俺よりむしろ恭子さんの方が落ち着いてるみたいだ。


「楠さんはどうしても仕事で来れないそうです」

「うん。昨夜携帯で話したから……」

「そうですか」


ああ、なんか言わなくちゃ。何を緊張してるんだろうか、俺は……


「陽平君こそ大丈夫?」


ほら、逆に心配されちゃったよ……


「す、すみません。俺、こういうの慣れてなくて……」


しかし、緊張してるのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。


「恭子、しっかりね?」

「うん」

「がんばるんだぞ? 私達も川田君も、みんながお前の無事を祈ってるんだからな?」

「うん。わかってるわ、お父さん」


ご両親も相当に緊張しているようだ。お二人から、張り詰めたような空気を感じる。正直、そこまで緊張しなくても……と思ってしまうほどに。


と、そこへ、看護師さん達が寝台を押して病室に入って来た。いよいよらしい。そして看護師さん達の介添えでその寝台に恭子さんが乗り移ろうとした時、


「ちょっと待ってください」


と恭子さんは看護師さん達に言った。そして俺を見て、悲しそうな顔をした。

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