最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「陽平君……」

「は、はい」


何だろう。恭子さんは、なんて悲しそうな顔をするんだろう。こっちが切なくなるぐらいに……


「もしもの時は、私の事は忘れてね?」

「は?」

「もっと明るくて可愛い子を見つけて、幸せになってね?」

「な、何言ってんですか? 意味わからないです」


恭子さんは急に変な事を言い出した。まるで今生の別れみたいな事を……

確か俺のアパートで倒れた時も、恭子さんは俺に「長生きしてね?」と言ったと思う。しかしあの時は恭子さん自身、死を予感したからだと思うが、今はそんな状況じゃないと思うんだけどなあ。

かと言って冗談で言ってるとは到底思えないし……


「だから、もしもの場合って言ったでしょ?」

「ああ、そうですね。はいはい、その時はうんと可愛い子を見つけますよ?」

「うん。本当に、お願いね?」


久々に恭子さんの“お願い”を聞いたけど、今度ばかりはちょっとなあ。


「そんな縁起でもない事言わないでくださいよ。俺は待ってますから、がんばって元気な顔を見せてください」

「うん。そうね? 私、がんばる……」


と言ってる割りには恭子さんが儚げに見え、そんな彼女を抱きしめてあげたくなったが我慢した。周りに人がいるからだ。でも……


俺は恭子さんの左の頬にそっと手の平を当てた。これくらいはいいかなと思って。すると恭子さんは、俺のその手に自分の手を重ね、潤んだ瞳で俺を見つめた。

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