最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「恭子さん……」
“なんでそんな悲しそうに俺を見るんですか?”と言いたかったが、看護師さんの「そろそろ行きますよ」の言葉で遮られてしまった。
恭子さんは、寝台に乗せられてから病室を出て行く前にもう一度俺を見たが、やはり悲しそうな顔だった。それで俺は、すごい胸騒ぎを覚えた。難しい手術ではないはずなのに……
“手術中”の赤いランプが点った。俺は廊下のベンチに座り、額の前で手を合わせ、手術が無事に終わる事を祈っていた。すると、誰かに肩をポンポンと軽く叩かれた。顔を上げると、恭子さんのお母さんだった。そしてお母さんは、
「長く掛かるから、いったん食事に行くとかした方がいいですよ?」
と言った。
そうだろうか。俺はわからないながらもネットで色々と調べていた。心臓疾患や手術についてのあれこれを。恭子さんが今受けてる手術はそれほど時間は掛からず、せいぜい2時間ぐらいのはずだ。もちろん失敗する危険は殆どない。
2時間は長いと言えばそうかもしれないが、それぐらいの時間なら俺はここで待っていたい。どこかでのんびりとなんて、恭子さんに申し訳ない気がして。だから、
「せいぜい2時間ぐらいですよね? 僕はここで待ちますよ」
と返事をしたのだが、なぜかお母さんは困ったような、あるいは辛そうな顔をした。そして、
「川田君に言ってあげなさい。本当の事を……」
恭子さんのお父さんが、座って下を向いたまま重々しい声でそう言った。