最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「ちょっと……」


すかさずお母さんが俺を止めようとしたが、それに構わず俺は手術室のドアに向かって行った。ところが、不意に後ろから誰かに強い力で押さえられてしまった。


「お、お父さん……?」


振り向くと、俺を押さえたのは恭子さんのお父さんだった。


「やめなさい」

「放してください。中止しないと、恭子さんが死んでしまいます」


俺はそう言ったのだが、お父さんは腕の力を緩めてはくれなかった。


「死ぬとは限らないだろ?」

「そうですけど、その確率の方が高いんですよね? そんなのダメです。絶対に。放してください。今ならきっと間に合うはずです」


そう言ってもお父さんは俺を放してくれなかった。こうなったら力ずくでも、と思ったのだが……


「君は恭子の意思を無視するのか?」


と言われてしまった。強い口調で。


「恭子さんの意思、ですか……」

「そうだ。私も妻も反対したんだ。だが、あの子の意思は強く、私達は承諾するほかなかった」

「でも……」

「恭子は命がけの勝負に出たんだよ。私達には見守るしかないだろ? あの子が今までどんなに辛い思いをして来たか、君に解るか?」

「それは……」


解らないと思う。おそらくそれは、恭子さん自身にしか解らないと思う。

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