最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「私にも解らないがね。妻は、自分も心臓で苦しんで来たから、私よりは解るだろうが……」
そうだった。お母さんも……
お母さんを見ると、涙をポロポロと流していた。
「恭子は、生きる事を諦めていた。たぶん、だがね。私も妻もあの子に生きてほしかったが、説得できなかった。あの子の人生は、あの子のものだから……。だが、君と出会ってあの子は変わった。今は生きよとしている。しかもただ生きるのではなく、自分の運命と闘っているんだ。私達はあの子が勝利する事を祈るしかないじゃないか。なあ、そう思わないか?」
「運命と闘っている……ですか?」
俺は……正直に言えば恭子さんには闘ってほしくなかった。生きてさえいてくれれば、それでいいと思った。しかし恭子さん自身が、それを望むなら……
「…………わかりました」
そう言わざるをえなかった。
なぜ恭子さんは俺に相談してくれなかったんだろう。
なんて、考えるまでもないな。もし相談されていたら、そんな難しい手術なんて俺が賛成するわけないもんな。恭子さんはそれがわかってたから、俺には言わなかったんだ。やっぱり恭子さんって、頭いいや。
それに引き換え、俺は……
階段を駆け足で上ると言ったのも、悲しそうな顔で俺を見たのも、自分の事を忘れてくれと言ったのも、みんなそういう事だったのに、ちっとも気付かなかった。バカだな。
恭子さん、どうか勝利してください。あなた自身の力で、あなた自身の運命に……