最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
恭子さんの手術は本当に長かった。しかし俺たちは3人ともずっと手術室の前で待っていた。もちろん手術の成功を祈りながら。途中で恭子さんのお母さんが飲み物と握り飯やパンを買って来てくれたが、あまり喉を通らなかった。
手術が始まってから6時間。いや7時間経っていただろうか。突然“手術中”の赤いランプが消えた。
俺たちは立ち上がり、息を飲んで待っていると、手術室の扉が大きく開いた。恭子さんは無事だろうか。手術は成功したのだろうか……
中に駆け込みたい衝動を必死で堪えていると、大勢の医師や看護師たちが中から出て来た。そしてその中に、掛かりつけの医師の姿を見つけた。他の医師や看護師もそうだが、その医師は疲れ切った顔をしており、表情が暗く見える。
おそらく、手術は失敗したのだろう。
医師の言葉を待ちながら、既に俺の目には涙が溢れていた。もう、恭子さんはこの世にいないんだ……
「手術は一応成功しました」
えっ!?
「ほんとですか!?」
思わず俺は聞き返した。たぶんお父さんも、お母さんも同時に言ったと思う。
「はい。成功です」
医師はそう言ってニヤリとした。控えめではあるが、誇らしげに。
やったあ!!
もう……。成功したのなら、なんでもっと明るい顔してくれないかなあ、先生!
「しかしまだ油断はできません。しばらくはICU(集中治療室)で経過を見ます。それにしてもお嬢さんはよくがんばりましたよ。理屈では言えませんが、生きようとする強い意思を感じました。では……」
「ありがとうございました!」
俺たちは肩を抱き合った。俺の顔は、悲しみの涙から一転して喜びの涙に変わったそれでグショグショだったが、お父さんもお母さんもそれは同じだった。