最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

「はあー。どうせ僕が誰を好きかなんて、楠さんには興味ないですよね……」


と俺がしょげていたら、「まあまあまあ……」とか言いながら、莉那先輩は俺のグラスに冷酒を注いでくれた。


「そういう事じゃないんだなあ」


お返しに俺も莉那先輩のグラスに冷酒を注ごうとしたら、“いいから”って感じで莉那先輩は手酌をした。莉那先輩って、見かけによらず男っぽいところがあるんだなあ。


「それはどういう事ですか?」

「うん。それを私が聞いちゃうと困るのよ。立場が微妙になる、っていうかね……」

「はあ……」


莉那先輩には悪いけど、彼女が言う意味が俺にはさっぱり解らなかった。


「私の同期で、五十嵐恭子(いがらし きょうこ)っていう子がシステム部にいるんだけど、あなた知ってる?」

「はい?」


いきなり話題を変えるんですね、莉那先輩?


「知らないわよね?」

「はあ……」


システム部と言えば悪友の田上がいる部署だが、あいつから五十嵐恭子なんて名前は聞いた事がない、が……


「もしかして、時々楠さんと社員食堂でご飯食べてる人ですか?」

「そうそう、その子よ。よく知ってるわね?」

「はい、そりゃあもう……」


“あなたの事をいつも目で追ってますから”とは言えなかった。本当は言いたかったけども。

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