最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
*** 陽平Side ***


そして土曜日がやって来た。俺の実家へ行くのは来週にしてもらい、今日は夕方から恭子さんは同窓会へ行く。中学の。おそらく、あの“ナカジマくん……”、字は“中島”と書くらしいが、も参加するはずだ。


恭子さんが俺に隠そうとしたのは、それが原因で間違いないと思う。


では、なぜ中島なる男も参加する同窓会を、恭子さんは俺に隠そうとしたのかだが、ひとつには俺に気を遣ってくれたのだと思う。俺は中島なる男が恭子さんの初恋の相手と知っているから、要らぬ心配をかけまいと思って隠そうとした。


うん。きっとそうだ。だが、裏を返せばこうは考えられないだろうか?


恭子さんは、心の中ではまだ中島なる男を忘れられずにいる。そのため、同窓会で再会する事が楽しみで、それだけに俺に対しては後ろめたい。だから隠す。


うーん、そう考えたくはないが、有り得る事だと思う。確か莉那先輩が言ってたはずだ。「5年も想い続けたんだから、そう簡単に忘れられるはずがない」と……


俺は正直、恭子さんを行かせたくない。だが、それでは逃げる事になりはしないか?

つまり、恭子さんは中島という男に再会し、その上でやっぱり俺を選ぶ。それでこそ俺たちの関係は恭子ならぬ強固になる、と俺は思う。ちょっとやせ我慢っぽいが。


「どう? おかしくない?」


すっかり出掛ける支度をした恭子さんが、俺に向かってクルッと回って見せた。恭子さんは昨夜も俺のアパートに泊まったのだ。


「おかしいどころか、すっごい素敵です」

「もう、褒め過ぎでしょ?」

「そんな事ないですよ。きっと同級生のみなさんも、恭子さんを見てびっくりすると思いますよ?」


中島なる男もね。


「そ、そうかな。じゃあ、そろそろ行くわね? 一次会だけでさっさと帰るから」

「そんな事言わず、うんと楽しんだらいいじゃないですか? 俺は一人寂しく寝ますから」


恭子さんは、同窓会の後は自分の実家に帰る事になっている。


「陽平君ったら……。じゃあ、行ってきます」


俺は、アパートを出て駅へ向かって歩く、スタイル抜群の恭子さんの後ろ姿を見えなくなるまで見送った。一抹の不安を抱きながら。

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