最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
*** 陽平Side ***


ああ、くそっ!

何をやってもイライラする。こんな時の特効薬のはずのタバコを吹かしてみても、全然効きやしない。


恭子さんがここを出てから2時間ほどが過ぎた。今頃は同窓会のまっただ中だろう。中島なる男と再会しただろうか。しただろな。それで恭子さんは、今どんな気持ちでいるんだろうか……


つい俺は、恭子さんの同僚の中嶋さんを思い浮かべてしまう。人違いとわかってはいるが、中島なる男を知らないのだからしょうがない。


頬を赤く染め、潤んだ瞳で中嶋さんを見上げる恭子さんを想像し、俺は胸が張り裂けそうになる。缶ビールを既に何本も空けたが、酔えば酔うほど酷くなる。アルコールは逆効果だったらしい。


テーブルの上に目をやれば、同窓会の会場を記した葉書のコピーが置いてある。もしもの時にと、恭子さんが置いて行ってくれたのだ。


ここから電車で30分ってところかな。


いやいや、何を考えてんだ、俺は……。そんなみっともない真似が出来るかってんだよ。


俺はそれをクシャクシャと丸め、屑篭にポイっと投げ捨ててやった。そして畳に仰向けに寝転び、目を閉じると、また妄想が……


事もあろうに、中嶋さんが恭子さんに顔を近付けていって……


ああ、くそっ!


俺はガバッと飛び起き、屑篭に手を突っ込むと、コートを引っ掴んでアパートを飛び出した。

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