最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
*** 作者Side ***


駅への道を、陽平と恭子は手を繋いで歩いている。街はすっかりクリスマスのイルミネーションで彩られていた。


「ねえ、拗ねないで?」

「…………」


恭子は、中島を素敵と言った事で陽平が拗ねていると思ったが、実は陽平はそんな事はなく、しかし拗ねていると恭子が構ってくれるので、それが嬉しくて拗ねた振りをしていた。


「アイスクリーム買ってあげようか? ほら、あそこのって美味しいのよ?」


恭子は通りにあったチェーンのアイスクリームショップを指差した。


「要りません。俺、子どもじゃないんで」


本当は食べたい陽平だったが、意地を張ってしまった。恭子から子ども扱いされるのは、いわゆる“マジで勘弁”な陽平であった。


その時、ふと陽平は思った。同窓会の会場を恭子が出て、その後を追うように中島が出て来てから、二人はいったいどんな話をしていたのか、と。その流れで、恭子は自分に電話を掛けたようだが、その“流れ”はどんな流れだったのか……


「恭子さん」

「ん? なあに? やっぱりアイス食べたい?」

「ち、違いますよ。中島さんとどんな話をしてたんですか?」

「え? いつ?」

「会場を出てから、引っ張って行かれるまでの間です」

「見てたの?」

「はい。見てました。でも、声は聞こえなかったんで、気になっちゃって……」

「そう? そうねえ……話すほどの事でもないわ」


恭子は思い出したが、実際に陽平に話すような内容ではなかったと思う。中島から告白されたのだが、あれは本当のようでもあり、嘘のようでもあり……。今となってはどちらでもよいような気がした。


「ちょっと待ってくださいよ。隠すんですか?」

「べ、別にそういうわけじゃ……」

「俺たちの間に隠し事はなしって、前に言いましたよね?」

「そうね」

「じゃあ言ってください」

「ん……」


やっぱり言いたくないと恭子は思った。中島の話題は、もうしたくないと思ったからだ。


「いいですよ、言いたくないなら、拷問しますから」

「拷問? どんな?」

「そうですね……、例えば……」


陽平が言った“拷問”は、ちょっと際どすぎて文章にできない。


「うそ。そんな事するの?」

「はい。あるいは……」


これまた、公序良俗に反するので文章にできない。


「マ、マジで?」

「はい、マジです」


恭子は顔を真っ赤にし、歩く速度を速めた。


「恭子さん、怒っちゃったんですか? 今のはじょう……」


“冗談ですよ”と陽平は言おうとしたのだが……


「違うの。早く帰りたいの。早く帰って……拷問して?」



おしまい。



最後までのお付き合い、誠にありがとうございます。
本作はこれにて完結とさせていただきます。


2013.10.20 秋風月
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