最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「五十嵐女史って、彼氏はもちろん、同性の友達もいないらしいぞ。あ、一人いるらしいけどな。広告部の、何て言ったかなあ。すげえ綺麗な人。川田、おまえ知ってるだろ?」
「さ、さあ……」
ここは惚けよう。田上が言ってるのは莉那先輩の事に違いないが、それが分かると俺の莉那先輩への気持ちもバレちまいそうだから。
「五十嵐恭子さんって、かなり地味な人らしいもんな?」
と、すかさず話をそっちへ持って行った。
「そうらしい。無口で、殆ど誰とも話をしないらしいけど……あ、思い出した。楠さんだ。楠莉那さん。もちろんおまえも知ってるだろ?」
「あ、ああ、一応はね。それで五十嵐恭子さんなんだけど……」
「ちょっと待て。おまえに頼んだ“ある人”って、その楠さんだな?」
「いやあ、それは……」
ムム、これはマズイ事になってきたぞ……
「おい、なんで隠すんだよ? さてはおまえ、楠さんの事……」
「どうもありがとう!」
と言って俺は立ち上がった。
「悪かったな? 仕事中に。助かったよ。じゃあな?」
俺は伝票を引っ掴み、逃げる体勢を取った。
「まあいいや。何だか知らないが、経過を教えろや。面白そうだ」
「ああ、わかった。じゃっ」
危なかったぜ……。っていうか、殆どバレたかもしんない。あいつの良心を信じるしかないな。良心があればだが。