最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
「あら、そう? わかった」
「すみません、無駄な時間を使わせちゃって……」
俺はそう言って主任に頭を下げ、申し訳なさと情けなさで、すぐには顔を上げられなかった。すると……
「そんな回りくどい事しないで、ストレートに当たればいいのに……」
主任の呟くような声に、俺はハッとして顔を上げて主任を見た。しかし主任は、素知らぬ顔でパソコンに向かい、早くもマウスをカチカチやっていた。
今のは俺の空耳か?
いやいや、それはない。しっかりこの耳で聞こえたからな。つまり、俺の目論見は主任にバレバレだったわけか。かっこわりい……
実は主任に担当替えを頼んだのにはある訳があった。それは、営業の楠莉那(くすのきりな)先輩の担当が、俺と違うからだ。
営業と企画制作のメンバーは、組んで仕事をするという事は滅多にないが、同じ業種を担当する者同士だと、情報交換やら何やらで接触する機会が多い。
現に化粧品やファッションを担当する莉那先輩は、同じ担当の主任の元へよく来る。そんな彼女を俺は間近で見て鼻の下を伸ばしているのだが、更に接近したいと思ったのだ。
つまり主任が指摘した通り、ものすごく不純な動機だったわけ。