最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜

エレベーターホールですぐに莉那先輩が俺に追い着いた。


「恭子、下で待ってるって」

「そ、そうですか」


いよいよかあ……


エレベーターで1階に下り、正面玄関に向かってロビーを莉那先輩と並んで歩くと、玄関の脇でこちらに向かって立つ、すらっとしてスタイルのいい女性が目に入った。

あの人が恭子さんか? ちょっとイメージと違うような……


しかしその女性は、ストレートの黒髪に黒縁の眼鏡を掛けているから恭子さんに違いない。サブリナパンツっていうのかな。よくわからないがカーキ色のスリムなパンツに、薄紫色の淡い色のブラウスを着ている。

それら一つ一つは特に問題はないのだが、全体に何となくしっくり来ないと言うか、そう、アンバランスな気がする。

近付くにつれ、恭子さんの顔がはっきり見えて来たが、こちらも何となくアンバランスな気がするのはなぜだろう……

ああ、そうか。唇だ。口紅が紅すぎる。黒縁の眼鏡と紅すぎる唇ばかりが目立ってしまっているんだ。


「恭子、お待たせ。こちらが川田陽平君よ?」

「はじめまして、川田です」


と言ったら、恭子さんは一瞬ペコっとお辞儀したように見えたが、すぐにプイッと横を向いてしまった。

あれ? と思っていたら、莉那先輩に肘で小突かれた。思わず莉那先輩を見たら、素早い身振り手振りで『唇を見ちゃダメ!』と言われた。


莉那先輩、パントマイムが上手っすね?

っていうか、唇を話題にするなとは言われたけど、見てもいけないなんて言われてませんよね?


理由は分からないが、恭子さんは唇を見られるだけでも嫌らしいから、今後は気を付けようと思った。

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