最後の願い 〜モテ男を惑わす地味女の秘密〜
莉那先輩がいつも付ける香水の匂いを、俺は半径5メートル以内なら嗅ぎ取る事が出来る。
あからさまにならないように注意して、デスクの上の棚の横から覗いてみれば、案の定莉那先輩がこちらに向かってキビキビした動作で歩いて来るのが見えた。
こちらと言っても、隣の主任の所へ、なのだが。
莉那先輩は、主任に近付くと彼女に向かってニコッと微笑んだ。うーん、なんて素晴らしい笑顔だろう。言ってみれば、“100万ドルの笑顔”だな。うん。
もしもあれが俺に向けられたりしたら、俺は心臓発作を起こしてしまうんじゃなかろうか。
そんな事を考えてボーッとしていたら、莉那先輩が、なんと俺に視線を移して来た。しかも、“100万ドルの笑顔”のままで。
心臓発作とまでは行かないが、心拍数が急上昇し、顔がカーッと熱くなっていたら、莉那先輩は主任の後ろをスルーし、なんと俺の真横に来た。
「川田君、ちょっといいかしら?」
「は、はい!」
莉那先輩の、ちょっとハスキーで色っぽい声で名前を呼ばれ、俺は返事と同時に、飛び上がるように椅子から立ち上がった。